ダラニの集大成 ― 諸真言要集

仏教経典中には、功徳や誓願をもたらすダラニが数多く記されている。そのダラニを一つの経函に収めたものがチベット語訳の『諸真言要集』である。この『諸真言要集』の原本（縦15.8cm×横53.5cm）は、高野山大学図書館に所蔵され、デルゲ版をはじめとするチベット大蔵経とは別の書棚に保管されている。本書には、大正2年に本図書館に収蔵されたとの簡単な箱書きがあり、手書きの『諸真言要集目録』が添えられている。このたび、この『諸真言要集』をDVD化すると共に、目録を一新し発売することとなった。

『諸真言要集』という経題は仮題であり、正しくはタントラの不可思議なダラニと経典から必要なものを集めた『如意宝珠 yid bshin nor bu の経函』と言う題名を持つ。このダラニ集は、17世紀にターラナータ（1575-1643）が建立した吉祥ガーデンプンツオクリンの了義を喜ぶ園の法大学寺で編纂されたとされ、その内容は、目録以外の86秩820葉(folio)に総数160篇のダラニと経典が収められ、一般のチベット大蔵経にはないダラニ経典も数多く含まれている。 内容を見るに、最初にはタントラのダラニ経典として無上ユガタントラの『ナーマサンギーティ』から始まり、般若経類のダラニなど、あらゆるダラニ類を網羅している。またそれらは、ある場合には完全な一経典を記載し、ある場合にはダラニとその功徳や誓願を抜粋して記載する。その翻訳に当たっては、デルゲ版とはかなり異なる点も多く見受けられる。

したがって、膨大なチベット大蔵経中のダラニ類を一望しようとする場合には極めてコンパクトで便利であり、特に密教の研究者には座右に欲しいダラニの集大成である。

高野山大学教授・博士（密教学）　越智　淳仁